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ここに書いているのは、スタンドの個人的な解釈に過ぎません。
原作の設定・描写をベースに、
勝手に考察・妄想しただけのものです。
正確な公式データが欲しいという方には何の役にも立ちませんので悪しからず。




Dirty Deeds Done Dirt Cheap / 本体: ファニー・ヴァレンタイン
< 「次元」を超える能力 >





<特徴>
本体:ファニー・ヴァレンタイン大統領が、「聖なる遺体」の一部を宿した事によって発現したスタンド。
初めは「心臓部」のみ所有していたが、その時点からこのスタンド能力だったかどうかは不明。詳細は謎である。ただ、フィラデルフィアの時点ですでに、「遺体」を体内から取り出しても能力が消滅しなくなっていた事は事実。完全に能力を引き出し、大統領自身のスタンド能力として固定されたようだ。


人型のヴィジョンを持つスタンド。体中の編み目と、頭部にある悪魔の角・ウサギの耳のような2本の巨大な突起が特徴的。


射程距離が約2mの近距離パワー型スタンドである。
「SBR」に登場するスタンドの中では極めて珍しく、スタンドそれ自体が他の物質に干渉している。ヴィジョンそのもので攻撃や破壊を行う事が出来る、ある意味、最もスタンドらしいスタンドと言えよう。


スタンドの正式名称は『Dirty Deeds Done Dirt Cheap』いともたやすく行われる えげつない行為)であるが、その頭文字から『D・D・D・D・C』、さらには『D4C』(ディー・フォー・シー)と略される。




<能力>
「次元」を超える能力



第1部~第6部で描かれた「旧世界」は、ある超越的・絶対的な力で満たされており、ありとあらゆる存在がこの力を共通して保有していた。『フー・ファイターズ』(が引用した天文物理学者フレッド・ホイル)の言葉を借りるなら、その力とは「知性」である。全ての物質や生物はこの「知性」に導かれて生まれ、物質や生物に宿る「知性」は自身の「情報」を絶えず記憶し続けている。そして、この「知性」は大なり小なり互いに反応し合い、影響し合い、「物質世界」において1つの巨大な流れを形作る。何者にも抗えぬ「因果の流れ」、なるべくしてなる「必然の連続」。人はそれを「運命」と呼び、「運命」を決定付ける「知性」そのもの(が持つ意志のようなもの)を「神」と呼ぶのである。
「旧世界」において、「予知」した結果は必ず実現されたし、多少なりと「運命」に干渉できる能力を持つスタンドは稀有な存在であった。それほどまでに、「運命」の力とは強固なものだった。ところが、第6部ラストで世界は新生する事となる。エンリコ・プッチが『メイド・イン・ヘブン』を発動し、宇宙を完全に一巡させる前に死んだ事で、プッチが存在しない歴史を歩む世界に根本から生まれ変わったのだ。この時、砕け散った『メイド・イン・ヘブン』から「運命」を変える力が宇宙中に拡散・伝播したのか……、あるいは、人類が「運命」の庇護から独り立ちして「次なるステージ」に突入する事を、「知性」=「神」の意志が認め祝福してくれたのか……、生まれ変わった「新世界」は、「旧世界」よりも「運命」の力が大きく弱まったのである。
第7部以降は、この「新世界」で紡がれる物語。「旧世界」に近い歴史を辿りやすくなる「流れ」こそあれど、絶対的な「運命」への隷属からは解き放たれた世界。「運命」ではなく……、個々の「縁」によって回り、「意志」によって「因果」が導かれる世界。「神」ではなく「人」が道を選べる世界。数多の可能性に満ちた、不安定だが自由な世界。『D4C』もまた、そんな「新世界」に生まれたスタンドであるがゆえに、「次元」を超えて数多の可能性を渡り歩く力を得る事が出来たと言えよう。


「次元」を超える『D4C』の能力……、それは主に、「隣りの世界」を行き来する事に使用される。
「隣りの世界」とは、この世界に極めて近い歴史を辿っている、異次元に存在する別の世界。この世界とほぼ同じ事が起こるとは言え、出来事が起こるタイミングが数秒~数分ほど(あるいはもっと)ズレる場合や、出来事の内容に多少の差異が生じる場合もあるのだ。一種のパラレル・ワールドとも呼べるだろう。
最大の違いが、「聖なる遺体」の存在の有無である。「遺体」はこの世でたった1つの奇跡。あらゆる次元において、1つしか存在しないようだ。その「遺体」の穴埋めとして、「隣りの世界」では不思議なダイヤモンド等が存在している。「遺体」が存在する世界が、全ての「基本の世界」。存在する人物も、発現するスタンド能力も、人の生き死にも、全て「基本の世界」に準じている。ゆえに、「基本の世界」で死んだ人間は、「隣りの世界」でも程なくして死ぬ事となる。
しかし、後述する『D4C』の能力により、「隣りの世界」から同じ人物を「基本の世界」へと連れて来る事も出来る。その場合、連れて来られた人物が新しい「基本」となる。死の運命から逃れ、新しい道を歩めるのだ。


「隣りの世界」は無限に存在しているらしい。もしかすると、無限の中のどこかの次元には、この世界とまったく異なる歴史を辿る「遠くの世界」(別の可能性へと分岐した世界)もあるのかもしれないが、作中ではその存在は確認されていない。
ただし、何にでも例外というものはある。ごくごく僅かに、「基本の世界」とはまったく別のスタンドを発現させた世界なども存在しているようだ。


「基本の世界」と「隣りの世界」とを行き来する方法は、モノとモノの間に挟まる事。それは生物だろうと液体だろうと構わないし、1つの物質を折り畳んでも良い。とにかく2つの「面」に挟まりさえすれば、「隣りの世界」への「扉」は開かれる。
この時、本体:ファニー・ヴァレンタイン大統領の肉体はメンジャースポンジ状になり、2次元と3次元の中間的な存在となるようだ。(「メンジャースポンジ」とは、体積がゼロ面積が無限の理論上のフラクタル図形。)そのため、挟まれた「面」(=物質)に溶け込み、そのまま「次元の壁」を超え、「隣りの世界」へと移動できるのだ。


無限に存在する「隣りの世界」。何かに挟まれ潜り込んだ状態の時、大統領はその中のどの世界へ移動するかを取捨選択する事となる。『D4C』を通じて、自分の望みに近い世界を(大雑把にではあるが)検索・決定し、移動するのだ。
目的や状況に応じ、物事が起こるタイミングが若干遅れた世界早い世界を探し出し、そこへ移動したりしている。この作業はほぼ一瞬のうちに行われるケースがほとんどだが、「基本の世界」との差異が大きい世界ほど、検索・移動に時間とエネルギーを消費する。
ちなみに、「基本の世界」へはどの世界からでもすぐに帰って来る事が出来る。


次元間を移動する時、行き来できるのは同一の物質の間のみ。
「物質A」と「物質B」に挟まれると、大統領は、そのどちらの物質を次元を超える「扉」にするか選択できる。「物質A」を「扉」にした場合、大統領は「物質A」の中に溶け込み、潜り込む。そして、「隣りの世界」の「物質A」から出現する。「基本の世界」の国旗を「扉」にしたなら、「隣りの世界」の同じ国旗から出て来るという事である。よって、地面からビルの屋上へとか、フィラデルフィアからニューヨークへとか、そういったワープ的な移動は不可能。
また、物質に挟まれて溶け込んだ際、次元を超える「扉」としては利用せずに、その物質の裏側に突き抜ける事も出来る。作中では、ディエゴ・ブランドーの肉体に溶け込み、背中側へと突き抜けた。メンジャースポンジ状であるために重量をも感じさせず、ディエゴはまるで気付けずにいた。


数秒程度のごく短い時間ならば、物質に挟まれる事なく、肉体のほんの一部だけをメンジャースポンジ化させる事も出来ると思われる。
その場合、2つの「面」に挟まる必要はないが、1つの「面」に接触している必要があるようだ。ウェカピポの鉄球が命中した部分のみに穴が開き、そのまま突き抜けてしまったのは、この能力のためであろう。


上記の性質により、大統領に「面」の攻撃は通用しない場合が多い。パンチや張り手、あるいはロードローラーでブッ潰す……等の攻撃では、大統領を何かに挟み込む形になってしまい、そこから次元移動で逃げる事が出来るためだ。
しかし、刃や爪で切り裂いたり突き刺したり……といった、「線」の攻撃「点」の攻撃では大きなダメージを負ってしまう恐れがある。


大統領が物質に溶け込み、「次元の壁」を超える際、「隣りの世界」へと他者を同時に引きずり込める。その相手の肉体をどこまで「隣りの世界」の中に入れるか、選択・調節する事も可能。全身ではなく体の一部だけを引きずり込み、その部分から固定させてしまえば、相手の行動の自由をも奪える。
逆に、「隣りの世界」から「基本の世界」へと他者を連れて来る事も出来る。作中でも、大統領は「隣りの世界」から自分自身やディエゴ、ホット・パンツを連れて来ていた。これも、全身ではなく一部分のみを連れて来る事が可能らしく、「隣り」のルーシー・スティールの脚だけを引っ張って来て、「基本の世界」のルーシーの行方を追跡している。モノとモノの隙間から引っ張って来れる模様。


能力発動中は大統領以外の者でも、何かに挟まりさえすれば次元を行き来する事が可能。無論、その時も誰かを同時に引きずり込める。
ただ厳密には、大統領のようにいつでもどこでも自由に行き来できるワケではない。大統領によって別の世界に連れて来られた者が、元の世界に帰る時にしか使えないようだ。しかも、別の世界に来た際に「扉」として利用された物質・場所からでしか帰れないらしい。


もし誰かが「隣りの世界」に移動したまま能力が解除されたなら、その者は永遠に「隣りの世界」に取り残されてしまうだろう。
だが、ディエゴとの初戦を考慮するに、2つの世界に何かがまたがっている状態では、能力の意識的な解除は出来ないものと推測される。また、次元を超える「扉」とされた物を壊したなら、その時、2つの世界にまたがっている者は「扉」と共に破壊されてしまう。


物によっては、次元を超える「扉」にされた時に「隣りの世界」を覗き込める物もある。作中では、「鏡」がそれに当たる。
鏡として普通に像を映し出すと同時に、まるでガラス窓のように「隣りの世界」の様子まで見る事も出来た。詳しい理屈は謎だが、鏡のように光を反射させて像を映す物や、ガラスや水やクリスタルのような透明度の高い物などならば、そういう現象が起こりやすそうだ。


「隣りの世界」も1つの世界としての均衡を保って存在している。何者も抗えない、絶対的なこの世の法則・摂理・ルールがあるのだ。それは我々にとっても身近なルールで、「物は上から下に落ちる」「火は熱い」「太陽は東から昇り、西に沈む」「酸素がなければ呼吸できない」などといった至極当然のもの。その中に「この世に同じ人間は2人もいない」というルールもある。だが、『D4C』はこのルールをいともたやすく破ってしまう。
たとえば、「基本の世界」のディエゴも「隣りの世界」のディエゴも、まったく同じ人間。同じ状況下ならば、まったく同じ思考・反応・行動をしてしまうほど、同一人物である。そのうちの1人のディエゴが『D4C』によって次元を超えてしまったなら、「ディエゴがディエゴと出会う」という決してあり得ない出来事が起こる事となる。同一の存在が出会ってしまった瞬間、世界の均衡は崩れ去る。しかし、世界には自己修復力自浄力のような力もあり、均衡を崩した原因を排除して、元のバランスに戻ろうと、その力が自然と働く。この場合、2人のディエゴが邪魔者と認識され、この世から抹消されてしまうのだ。肉体がメンジャースポンジ化し、どんどん吹き飛んでいく。そして、どの次元からも存在そのものが消滅する。だが、もし死亡・消滅する前に元の世界に戻る事が出来たなら、世界の矛盾は解消され、スポンジ化による負傷も完全に無くなる。
より正確に記述すれば、スポンジ化は「同じ2人」が触れ合った時点で開始する。ごくごく近い距離にまで接近すると、磁石のように互いに引き合う力も働くようだ。接触した部分は、1つに重なり合いながらスポンジ化が進行し、消滅していく。ただし、最初にディエゴが「隣りの世界」に引きずり込まれた時は、2人のディエゴが認識し合った時点でスポンジ化していた。その違いが生じる理由は不明だが、「隣りの世界」には存在しない「遺体」を持ち込んだため、世界からの「排除の力」が通常より強烈に作用したのかもしれない。いずれにせよ、存在が崩壊・消滅する事には変わりない。
なお、このスポンジ化による崩壊・消滅の衝撃は、2つになった物質そのもののみならず、触れ合っている物質にまで及ぶ。消滅していく物質にうかつに近付き、触れてしまったりすると、巻き込まれる危険がある。


大統領本体だけは、上記ルールの外側にいられる。「隣りの世界」にいる自分自身と出会っても消滅しないどころか、重なり合うように存在を融合できる。元の2人に分かれる事も自由自在。
この能力を利用する事で、「基本」の大統領が致命傷を負ったとしても、「隣り」の大統領と融合する事で死を回避できる。前述の通り、多少のタイムラグがある「隣りの世界」も存在するため、その世界の大統領はまだ無傷のままである。融合によって、肉体は無傷な方がベースとなり、2つの命を持つ。そして、再び2人に分かれる際、意識・魂はそのままに肉体だけを入れ替える事が出来る。全てのダメージを「隣り」の大統領に押し付け、「基本」の自分は無傷に戻るのだ。
もしも本当に「基本」の大統領が死ぬような切羽詰った状況に陥った場合は、「隣り」の大統領に「基本の存在」という称号・資格を受け渡す事となる。方法は単純で、『D4C』の所有権を譲るだけ。融合の時のように、直接「隣り」の自分と接触せずとも、『D4C』の射程距離内にさえ入っていてくれれば良い。『D4C』が別の大統領の元に移動し、新たな本体となると同時に、新たな「基本」の大統領にもなるのだ。そして、ついさっきまでの「基本」の大統領は、「隣り」の大統領として息絶えるのみ。無限に自分が存在し得、協力し得る『D4C』の能力ならではの極めて特殊な性質である。
スタンドは精神の具現であり、魂の一部。故に『D4C』は、過去の「基本」の大統領達そのものでもある。「基本」になった瞬間、それまでの「基本」の大統領達の記憶や意志も受け継ぐ事となり、実質的にまったくの同一人物となるのだ。


そもそも、「遺体」によって次元を超える力を得た大統領だけは、全ての次元において存在が繋がっているのだろう。「遺体」や「基本の世界」の存在、そして己の確固たる目的だけは、全ての大統領が共通して認識しているようだ。
大統領は、時には「別の自分」を犠牲にし、時には本当に「自分自身」を犠牲にし、今まで存在を保ち続けてきた。実際のところ、大統領は数多の次元で何人も死んでいるワケなのだが、「基本の世界」で「遺体」を手に入れる事こそが全て。常人には理解できない感覚ではあるが、こういう能力を持つ大統領にとっては、あらゆる次元のファニー・ヴァレンタイン全てをひっくるめて「自分」なのだ。「全」であり「個」、「個」であり「全」。


「隣り」の大統領の中には、『D4C』と似て非なるスタンドを持っている者もいる。
スタンドの姿形も能力もそっくりだが、『D4C』ほど能力の自在性は有していないようだ。「基本」の大統領の許可が得られなくては次元移動できない、自分が属する「隣りの世界」と「基本の世界」間の移動しか出来ない、……といった能力的制限があると思われる。反面、「能力」の方にエネルギーを割かなくて良い分、基本スペックは『D4C』よりも高いものと推測される。少なくとも、恐竜の力を持つ(「隣り」の)ディエゴでさえ、迂闊に近付けばやられると警戒するに足るパワーとスピードを持っている事は確か。射程距離は5mほどらしい。
ただし、スタンドを持たない大統領の方が遥かに多く、スタンドを持つ「隣り」の大統領を探して連れて来るには、多少の時間とエネルギーを消費する事となる。


『D4C』の能力は、別世界・異次元への行き来だけに留まらない。同じ場所に「隣りの世界」を同時に存在させられる
強力に放出された『D4C』のスタンドパワーは、「次元の壁」を大きく歪ませる。そして、それぞれ独立して存在していた「基本の世界」と「隣りの世界」とを限りなく近付かせ、重ね合わせてしまうのだ。物理的に重なっているのではなく、存在の次元的なものが重なっている。互いに別の世界を認識・観測・知覚する事は出来ないが、でも確かに重なり合っているという奇妙な状態である。また、同時に重ね合わせられる世界の数には限りがあり、せいぜい3つ程度と思われる。
「隣りの世界」は、「基本の世界」とほとんど同じ歴史を辿っている世界だが、そこに「基本」の大統領が関わる事で運命は容易に書き換えられていく。作中でも、「基本の世界」と2つの「隣りの世界」で起こる出来事は、微妙に異なってしまった。ジョニィ・ジョースターを狙撃した犯人が、大統領からディエゴ、もしくはウェカピポへと代わってしまっている。ただ、「ジョニィが狙撃された」という事実だけは変わっていない。
これは「基本の世界」で起こった結果だけが、「隣りの世界」にも反映されたためだ。世界が重なり合っている状態では、運命が書き換えられ「過程」が別物になってしまっても、「基本の世界」の「結果」に「隣りの世界」が引っ張られてしまうのである。たとえ「隣りの世界」でディエゴがウェカピポを撃ったとしても、「基本の世界」でジョニィが撃たれたならば、途中の過程は一切無視して「ディエゴがジョニィを撃った」という結果に強引に変えられてしまう。


上記の能力が解除され、重なっていた世界が離れた際にも不思議な現象が起こる。複数の世界が重なり合っていた間の人々の記憶に異変が生じるのだ。
重なり合うそれぞれの世界での体験の中で、強烈な印象・衝撃を受けた出来事が優先的に、人々の記憶に刻み込まれる。ディエゴとウェカピポには、「大統領の能力でジョニィを狙撃させられた」という記憶だけが鮮明に焼き付き、その時刻に他の2つの世界で起きた出来事の記憶は残っていない。同じく、公園にいた男の子達は「ディエゴの狙撃を目撃した」記憶が、女の子達は「ウェカピポの狙撃」の記憶が残った。被害者のジョニィの場合、大統領・ディエゴ・ウェカピポの3人に撃たれた記憶が混濁しているようだ。これらの現象が、重なっていた全ての世界で起こり、重なっていた時間内の記憶は「基本」も「隣り」も統合される事となる。
この「記憶の統合」は、世界・次元の境界が歪み、他の世界の自分自身との「存在の距離」が限りなく近付いたために起こる現象である。その「歪み」の影響で、『D4C』発動直後に大統領の周辺にて、人々の認識・感覚にズレが生じる事もあるようだ。ジョニィが大統領の接近を大声で知らせても、ジャイロ・ツェペリがまるで気付けなかったのはこのため。木の陰に隠れる大統領を目撃した時刻に、ジャイロとジョニィとで明らかなズレがある事もその証明と言えよう。
「遺体」に関わる全ての者達を自らの手で確実に始末したい大統領は、人を射殺するスキャンダラスな自分の姿を見られてもいいように、この能力を使用した。いかに大統領でも、人の記憶を都合よく操作する事は出来ない。目撃情報をバラバラにさせる事が、せめてもの対策なのである。もちろん、『D4C』の能力で翻弄し、効率的に皆殺しにするためでもあるのだろう。また、前述の通り、「隣り」の大統領のスタンドは能力的制限が多いのだが、(「基本」の大統領の許可さえあれば)重なり合っている世界間は自由に次元移動が可能となる。そのため、複数の大統領が次元移動を多用でき、より不可解な状況を構築できるという利点も生まれる。
とは言え……、この「世界を重ねる能力」。大袈裟な仕掛けの割に、使い勝手はそれほど良くなさそうだ。世界がいくら重なろうが、大統領が直接関与しない限り、世界のほとんどの人々にとっては影響も関係もないし、何も気付く事もない。普通に次元移動してる方が手っ取り早い、というのが現実であろう。


『D4C』と大統領が行き来できるのは「隣りの世界」だけではない。「隣りの世界」よりももっと「基本の世界」に近い次元にも移動する事が出来る。
それが、「女神」となったルーシーのスタンド『ラブトレイン』の創り出す「空間のスキ間」である。「基本の世界」の中に生み出された異次元空間であるため、「隣りの世界」よりも近い世界であるのも当然と言える。
行き来する際にも、「隣りの世界」のようにモノとモノの間に挟まる必要すらない。ただ『D4C』の能力を発動させているだけでも移動が可能らしい。「次元の壁」を超える事が出来る『D4C』だからこその特権である。


『D4C』の能力で異次元間を移動できるのは、(基本的に)『D4C』自身と本体:ヴァレンタイン大統領だけである。しかし、自然界において、次元を超えている存在がもう1つある。それは「重力」という力である。
第6部でのエンポリオ・アルニーニョの言葉を借りると……、地球もリンゴも万物には「重力」が働いていて、それは全て「重心」の方向に引っ張られている。リンゴがリンゴの形と存在を保っていられるのは、その「重力」が正常に働いているからこそなのだ。それゆえ、仮に「重力」さえも遮断して次元移動したとしたら、その瞬間に大統領の肉体や心は人間としての形を保てなくなり、バラバラに崩壊・消滅してしまうだろう。つまり大統領は、自身の命と存在を保つために、必ず「重力」も同時に次元移動させていなければならないのだ。(もちろん大統領自身、いちいちそんな事を意識してはいないだろうけど。)
よって、もし「重力」を自由に生み出せて放つ事が出来たなら、一緒に次元をどこまでも超えて、きっと『D4C』に届くだろう。そして、『D4C』と大統領を打ち砕く唯一の力になるはずである。それだけが『D4C』の弱点と言えよう。


余談だが……、可能性として、「隣りの世界」とは『D4C』の能力で創り出された世界という説もある。つまり、この世界をコピーした世界。「隣りの世界」に「遺体」が存在しないのも、「遺体」はスタンド能力による影響を打ち消す性質を持っているためと考えられる。(『スケアリー・モンスターズ』での恐竜化を食い止めたり、『クリーム・スターター』でクリーム化できなかったり。)そのため、『D4C』の能力も「遺体」にだけは及ばず、代わりにダイヤモンド等が存在するのだ。
そう考えると、理解しやすい面も出て来る。「隣り」の大統領がいくら死んでも、『D4C』の解除と共に「隣りの世界」ごと消滅するワケなので、特に問題は生じない。再び発動すれば、その時点での「基本の世界」を元に、新たな「隣りの世界」が創り出される事となる。仮の存在に過ぎないのであれば、「隣り」の大統領達が自分を犠牲にしてでも、「基本」の大統領のために力を注ぐのも当然と言えよう。なお、大統領の死後も、異次元から来たディエゴが消滅していないところを見ると、新たに「基本」となった者は存在が保証OKされるのであろう。
あるいは、もう1つの可能性として、「遺体」の存在する別次元へは行けないと考える事も出来る。つまり、実際は「遺体」の存在する別次元も無限にあるのだが、能力の限界として、その次元へは行く事が不可能という事。『D4C』は「遺体」によって引き出された能力である。ゆえに、「遺体」が別次元の「遺体」と出会い、互いに消滅してしまわないための制限があるとしても不思議ではない。そうして結果的に、「遺体」は唯一無二の奇跡となり得る。
――実際のところ、真実は不明。しかし、「ジョジョ」や「SBR」が無限に存在する世界のたった1つの世界での物語という事に納得しにくい人や、「遺体」がたった1つしかなくて、しかもそれが全ての「基本」となる鍵だなんて解せないって人にとっては、けっこう都合の良い説になるのではなかろうか?


未知の部分も多いスタンドだが、とてつもないスケールの恐るべき能力である事は間違いない。
こんな複雑でややこしい能力を発現させ、理解し、自在に使いこなす大統領。やはり大物である。




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