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…康穂ちゃんを利用する
こいつだけは許さないッ!!


#030 追跡





●今月はウルジャンの表紙を華麗に彩ってくれました。でっかいしゃぼん玉の中で寄り添う定助&康穂。コミックス6巻のカバーイラストと連作になっています。6巻とは違い、東方ファミリーの姿も見えず、高度もまだまだ低い様子。このまま宙に浮かび上がって、東方ファミリーに発見されたシーンが、6巻のイラストなのかもしれませんね。しゃぼん玉による背景のグニャリ具合は、こちらの絵の方が強調されていて面白い。定助のポージングからも、しゃぼん玉の輪郭や外界との隔たりが感じられてグッドです。「清々しさ・爽やかさ」と「奇妙さ・不思議さ」が同居する、「日常(リアリティ)」と「非日常(ファンタジー)」が交錯する、なんとも杜王町らしい魅力が溢れた1枚です。この絵、好きだなあ。
見開きのカラートビラ絵は、なんと定助&夜露!まっすぐ棒立ちしてる無表情な定助に対し、夜露はなんともセクシーなポーズと表情。夜露、完全に調子こいてますね(笑)。さらに、お互いのスタンドも描かれております。『ソフト&ウェット』は珍しくカラフル。黄色と水色という、「ジョジョ」27巻でも見られる組み合わせが目を引きますね。そして、注目すべきは夜露のスタンド!これがまた……、実に奇妙なデザインです。とりあえず人型のヴィジョンを持っている事は判明したものの、以前、ほんのりと描かれていたシルエットとは似ても似つかず。上半身は細く丸みを帯び、トゲトゲが散りばめられ……、下半身はやけにでっかく三日月フォルムで……。独特すぎるデザインが、かなり気に入りました。でも、本編ではまだお預けの様子。早くコイツの活躍を拝みたいぜ。


●さて、本編。「同一の物質」が肉体の中心にトコトン集まってくるという、「重力の愛情」とすら表現され得る謎のスタンド能力。辛くも地下室に逃れた定助達でしたが、つるぎちゃんの口から「八木山夜露」の名が発せられ、衝撃を受ける憲助さん。なんと、夜露は東方邸の建築設計をした男だったのです!
おじいちゃんに怒られる恐怖と「病気」へのストレス・不安で、つるぎちゃんは泣きじゃくってます。ところが、憲助さんは決して怒らず、「勇気を持て」「男になれ」と力強く諭すのでした。抱き締め合う祖父と孫。しかし定助は、そんな感動的なシーンにもノー・リアクション。そんな事より何より、とにかく康穂の安否が気になってしょうがない。どうやら康穂は疲れて眠っているだけらしく、定助はついに康穂の無事を確認できたのでした。彼女の穏やかでかわいい寝顔を見て、なんだかとっても癒される定助(笑)。でも、ただ見てるだけじゃ寂しいのか、ちょっと物音を立てて起こしてみようかと画策してます。
すると、憲助さんが夜露について語り始めました。今、康穂が眠っている部屋は、「X」か吉良が幽閉されていたのではと思われた例の部屋。女の子なので、さすがにトイレは隠している模様です。ここはなんと、夜露の部屋でした。夜露と憲助さんは、3年ほど前、東方邸の新改築をした時からの関わりのようです。彼の仕事は有能で、事実、震災でも家はビクともしなかったそう。フランク・ロイド・ライト風のデザインも気に入り、機能も外観も超一級の家。よっぽど信頼していたのか、駅前のフルーツパーラーの店舗設計まで依頼していたとの事。その際、この地下室を夜露に使わせていたようなのです。震災直前まで、彼はこの部屋で仕事をしていた……。とは言え、あくまで仕事上の関係のみで、人間的に深い部分までは憲助さんも知り得ません。せいぜい、チェリーコークが好きって事くらい。


●そして、いよいよ話の核心に。つるぎちゃんは、何を見、何を知り、夜露に何を言われたのか?
「壁の目」の所で、1匹の犬が石のようにコチコチになって死にかけていた。夜露はその犬に「何か」を食べさせると、犬はみるみる元気になった。……それが、康穂も見掛けた例の変な犬だったワケです。まさか、ここであの犬が繋がってくるとはッ!こいつは素直にビックリしました。さらに夜露は、つるぎちゃんに話し掛けました。「定助を地下室におびき出してくれれば、東方家の病気を治す方法を教えてやる」、と。
定助はよそ者だから、夜露に差し出すくらい全然平気と、つるぎちゃんは判断したのでした。つーか、今でも普通にそう思っているらしい。それを聞いた定助の、不満気でビミョ〜な表情(笑)。憲助さんも気マズそうです。定助はつくづく顔芸が達者なヤツだな。
犬は何故、石になっていたのか?夜露は「何」を犬に喰わせたのか?疑問は色々あるけれど、定助にとって最も重要な事は夜露の動機ッ!定助を殺そうと狙う理由。冷静で計画的で、躊躇もなく、強い決意さえ感じられる。定助を殺す事で、夜露は何を得るというのでしょうか?
憲助さんも言及していたように、定助の中の「吉良」は「病気」を治す方法を知っているはず。そして、それはきっと夜露が見せたものとは違う方法のはず。そんな定助に対し、「この土地に不要」「記憶は戻らせない」などと言う以上、夜露は東方家に「病気」を克服してほしくないものと推測できます。もしかすると、夜露の遠い先祖が東方家に名誉を汚され、強い「恨み」を持ち、この「病気」の「呪い」を掛けたのかも?その「恨み」を夜露が受け継いでいるのなら、東方家に接触して来たのも、定助を始末しようとするのも頷けます。そんで最終的には、「石」と化した東方一族の亡骸を使った、立派な建築物(先祖への慰霊碑も兼ねた)を建てたいと願ってるとか。「病気」になった者の成れの果ての「石」は、建築材料として見れば最高級の逸品だったりして、それならば社会的名声も同時に得られそうです。


●地下室へはハッチだけではなく、震災のせいで入った地面の亀裂からも通じている事を教えられた定助。再び夜露の部屋のドアを開けてみると……、なんと、さっきまで寝ていたはずの康穂の姿がない!?どうやら自分の部屋にも、外との秘密の出入口をこっそりこしらえていたみたいです。つまり、康穂は夜露にさらわれた?定助を誘う罠として?
これには定助も本気でブチ切れッ!たとえどんな「恨み」を自分に抱いていようが、康穂を利用して傷付ける事だけは絶対に許さない。定助の瞳に、怒りの炎が燃え上がります(色的に「漆黒の殺意」ではなさげ)。我を失って夜露を追おうとする定助を、憲助さんが制止!ここで満を持して登場したのが、憲助さんのスタンドでした。キター!全身がジグソーパズル状の、ピエロ悪魔ジョーカーにも似たスタイリッシュなヴィジョン。これまた超カッコイイ!「ジョジョリオン」のスタンド、どれもグッドなデザインしてますな。
スタンドの名は『キング・ナッシング』。「メタリカ」の曲名が元ネタっぽい。東方家の人々のスタンドは、「キング」が付く名前が多いようですね。そして、その能力は「匂い」の形を見る能力。康穂の靴から彼女の「匂い」を見付け、パズル状にバラバラになったヴィジョンを重ねながら、「匂い」の移動の軌跡を辿って行くのです。つまり、「匂い」そのものと一体化し、「匂い」を追跡するスタンド。能力もバラバラになれるところも『ハイウェイ・スター』に似てるけど、パワーもかなり弱いようで。『キング・ナッシング』ならではの長所も見せてほしいものですね。……あ、本体のパズル化も可能っぽい点は長所ですね!


●『キング・ナッシング』は外へと移動して行きます。康穂の「匂い」のある場所が、夜露のいる場所に違いない。夜露の攻撃を喰らうリスクも高いが、逆にヤツを見付け出して叩くチャンスも訪れるはず。そのギリギリのせめぎ合いに賭けるしかありません。無関係である祖父を止めようとするつるぎちゃんに、「自分の家で好き勝手するヤツを許すな」家長の心構えを説く憲助さんがシブい。そう、これは定助を助けるためだけの戦いじゃないのです。家を、家族を、守るための戦いでもあるのです。夜露撃破のキーとなるのは、勇気を出して男となったつるぎちゃんなのかも。
――夜露を追跡しながら、憲助さんは静かに語り出します。1971年の冬、憲助さんは11歳の時、「病気」になった。……って、あれ?つるぎちゃんの回想での夜露もそうだけど、「病気」になるのは10歳から11歳に設定変更したの?その方が、12歳まで女装するって習わしの説得力も増しますがね。しかも1971年じゃ、1952年生まれの憲助さんは19歳っスよ?やっぱ荒木先生、細かい数字にはアバウトだなあ(汗)。……と、まあ、それはともかく。大方の予想通り、憲助さんの「病気」は母親が身替わりになってくれたようです。誰とは決まっていないけれど、長男以外の家族が長男の「病気」を引き受け、身替わりに死ぬ。東方家はそうやって続いてきた家だったのです。
じゃあ、どうやって「病気」を引き受けるのか?答えは身近で、そして意外なところにありました。それは「壁の目」。「壁の目」は埋めたモノ同士を「融合」させる土地、そう思い込んでいました。でも、本当は「融合」ではなく「等価交換」を行なう土地だったのです。「病気」の息子を助ける代わりに、「病気」を自分へ移す。「レモン」の一部を得る代わりに、「みかん」の一部を失う。「自分」の一部と引き換えに、「相手」の一部を手に入れる。ならば、「吉良のキンタマ」と等価なモノこそが「融合前の記憶」だったのでしょうか?このように、「融合」は「等価交換」によって起こる結果の1つに過ぎなかったようです。な、なんだってーッ!この衝撃は、物語の前提そのものをも揺るがしてしまいました。物語を1から捉え直し、考え直す必要がありそうです。
「等価交換」と言って、まず思い浮かぶのは「聖なる遺体」でしょう。ジョニィの選択と死は、まさしく今の東方家の姿。ならば「壁の目」の力も、ジョニィが「遺体」を持ち出した事によって宿ったもの?あるいは……、もっともっと大昔からその力が存在していたとしたら、「SBR」17巻で語られたイエス様の物語が関係している可能性もあります。イエス様は復活後、日本で船を造ってアメリカ大陸へと渡ったワケで、その船を造った場所が今の杜王町であったとしても不思議じゃありません。その頃から土地に宿り始めた力なのか?


●夜露は「病気」の犬に「何か」を食べさせて治したらしいが、そんな食べ物があるはずがない。孫の心を惑わすデタラメを吹き込んだ夜露に、憲助さんは激しい怒りと嫌悪を抱きます。増してや、家族の尊い犠牲の上に東方家は生かされている。それが、食べ物1つで治るようなくだらないものであっては絶対にならない。そんな想いもありそうです。ただ、もし本当に食べ物で治るのだとすれば……、#027での予想をちょっと生かして、それは東方家の果樹園のイチジクと「カツアゲロード」の銀杏(ぎんなん)の実であると予想しときましょう。
果樹園を越え、海岸の方までやって来た『キング・ナッシング』。その先に夜露はいるッ!ところが、『キング・ナッシング』はゆっくりと定助達の方に回り込み、近付いてくる。その時、定助の瞳が、岩陰に倒れる康穂の姿を捉えたのです。いつの間に!?定助が彼女に手を伸ばすと……、やっぱりいました。夜露の野郎がいやがりました。しかも、「柱の男」さながらに、まるで岩のようになって!海岸の岩に溶け込むように!
自分に触れようとする夜露に、すかさず定助はオラオララッシュをぶちかまします。夜露をブッ飛ばし、康穂も無事確保!しかし、直接目撃し、直接触れた定助だけが実感できる事実がありました。八木山夜露の皮膚は「岩」ッ!これはスタンド能力とかじゃなく、彼自身の体質だと言うのです。皮膚が「岩」なのに、生きて動いている人間。それが夜露。姿が見えなかったのも、壁や床、地面と同化したかのように見えていたため?岩石や地面と一体化するから、家も必要なく、誰も住んでる所すら掴めなかった?なんかよう分からんヤツですが、東方家の「病気」とも繋がる秘密があるんでしょう。前述の通り、そもそも東方家を呪ったのが夜露の先祖だからこそ、自分自身も自由に「岩石」化できるし、犬を呪う事も治してやる事も容易い、とか。または、「H」の文字のアクセサリーを付けてるワケだし、実は夜露も東方家の血を引く者だったりしないですかね?「病気」という「呪い」(マイナス)を、むしろ自分の力(プラス)に変えてしまったとかで。……まあ、もうちょい考えてみます。
さてさて、ようやく康穂の保護に成功した今、彼女から夜露の「匂い」を見付け出す事が重要です。しかし一方、夜露に触れられてしまった定助。という事は、またまた「何か」が定助に集まってくるッ!もし毒を持つ虫とか、スズメバチとかが集まって来ようもんなら怖すぎですね。ピンチはまだまだ続くッ!こんないいトコで以下次号でした。


★今月は47ページ!巻頭カラーだけあって、今回は一気に物語もバトルも進展し、文句なく面白かったです。多くの謎が明かされつつ、さらに深まる。地下室には夜露の部屋があったワケですが、定助の片割れ(「吉良」か「X」)も地下室にいた可能性だって依然残っております。つるぎちゃんが「前いた部屋に早く帰っておいで」と定助に告げていたんですから。そこで夜露と定助の接点が生まれたのでしょうか?謎、謎、謎、たまりません。しかも、次号もウルジャンの表紙だそうで。こんなに荒木先生のカラーを楽しめるとは、最高に贅沢ですなあ。
作者コメントは「やっぱ癒しはゾンビ映画と『孤独のグルメ』。どちらも人間の根源を描いている。大ファン!」との事。なるほど。人は所詮、腹が減った時は1人。そんな孤独と幸福を、真っ向から描き切っているのが「孤独のグルメ」なのかも。
付録の「JOJOVELLER mini」は、スタンド事典追加版が見所です。『ナット・キング・コール』と『ペーパー・ムーン・キング』が補完されました。……ん?つるぎちゃんのスタンド名が変わってる!6巻はまだ買えてないんですが、恐らくそこで名称変更があったんでしょう。こりゃあ、東方家のスタンドは「キング」で統一の方向か〜。吉良の「クイーン」に対抗するつもり?あと、せっかくのスタンド事典で『オータム・リーブス』がスルーされちゃってるのが切ない(まあ、「カツアゲロード」の項は元々あるけど)。



(追記)
●今回また様々な情報が得られた事もあり、それらの整理も兼ね、ここで改めて予想をまとめてみたいと思います。例によって、やっぱし無駄に長文です(汗)。興味とお時間のある方だけでも読んでやってくだせえ。


@「壁の目」とは何なのか?
「等価交換」を行なう土地、という衝撃的な事実が明らかになりました。その力が宿った元々の原因は、「SBR」17巻で描かれたイエス様が立ち寄った日本の地が杜王町だったから、って説を推します。んで、1901年にジョニィが「聖なる遺体」を杜王町に持ち込んだ事で、スタンドを目醒めさせる力も付加されたワケです。それに加え、この時点で「壁の目」の力が増幅されたものと思われます。
「等価交換」の力を知りながらも、東方家の長子が病死し続けてきた歴史。恐らく、東方家の「病気」に限っては「交換」する事が出来なかったのでしょう。そのため、「病気」になったら死を待つほかありませんでした。しかし1901年、「遺体」によって「壁の目」はパワーアップ!「病気」の「交換」すら可能になったのです。理那さんの件を知った東方家が、まさかと思って試してみた結果、この驚くべき事実を発見。それ以降、東方家は家族を身代わりにする事で「病気」を克服したのでした。

「等価交換」を行なうための条件・手順としては……、まず、「交換」を行ないたいモノ同士(原則的に2つ)を近くに埋める事。ただ単に埋めるだけだと、それらの「中身」が互いに「交換」される事になります(=「融合」)。恐らく、「中身」の半分が「交換」されて完了ですが、短時間で掘り返すと「中身」の一部だけの「交換」となるのでしょう。虹村さんの埋めた「レモン」と「みかん」がそれに当たります。
しかし、「壁の目」に対して強い意志を示せば(明言したり願ったりすれば)、それ以外の要素の「交換」も可能。それがまさに、「憲助さん」と「母親」でした。母:伴子さんの強い意志により、憲助さんを襲った「病気」を治す事と引き換えに、彼女自身がその「病気」を引き受ける事となったのです。「吉良」と「X」のケースも同様。吉良は自分の「キンタマ」を、そっくりそのまま「X」の肉体へ譲渡したのでした。このような、相手に一方的に与える(又は相手から受け取る)場合は、それに相応しいだけの代償・制約が必要となります。「交換」による融合体の定助が記憶喪失なのも、その「交換」に必要な代償だったからなのかもしれません。


A東方家の「病気」とは何なのか?
全身が「石」のようになり、記憶や意識も失われていき、やがては命を落とす奇病。東方家の長子に発病する病気。であれば必ず10歳の時に発病しますが、であれば少なくとも10歳よりは後に発病するようです。出産後に、時期不定で発病する……のかも。「病気」の進行スピードにも個人差があり、発病してすぐ死んでしまうケースもあれば、数年掛かって少しずつ悪化していくケースもある。傾向として、女性の方がスピードが緩やかなイメージ。
また、少なくとも兄がいるにも関わらず発病した理那さんの例もあるので、ごくまれに長子じゃなくても発病してしまう事もあるのでしょう。その場合、そっちの家系にも「病気」は伝承されていきます。ただし、発病時期は東方家とはズレが生じるようですが。
つるぎちゃん曰く、昔の東方家は次男を跡取りにしたり養子を迎えたりして、家を守ってきたとの事。それでも「病気」は続いている以上、これは東方という「血」にも「家」にも降り掛かった「呪い」と言えるでしょう。

しかし、この「呪い」の発祥が東方家自身だったりしたら面白いかもしれません。
たとえば……、かつて数百年もの昔、東方家は近隣の家々とも信頼し合い、協力し合いながら、共に栄えておりました。この土地特有の「等価交換」も、皆で掟を定め、有効に正しく利用していました。ところがそんなある日、周辺の土地が土砂崩れか何かで埋もれて、一帯に住む多くの人々が被災してしまったのです。これは即ち、「壁の目」の土地に周辺全体が埋まった状態。ここで東方家の先祖は、事もあろうか、こんな掟破りの「等価交換」をしてしまったのです。「東方家の復興・繁栄」を得る代わりに、「長子の命」「他の一族の繁栄」を捧げる、と。
そのため、東方家だけは繁栄を約束されたのでした。引き換えに、「東方家の長子」と「近隣に住んでいた他の一族達」は、まるで土地そのものに取り込まれるかのように「石」と化して死んでいったのです。かくして、「等価交換」の力も、東方家のみが知る秘密に。もし万一、この「呪い」を解けたとしても、それはかつての「等価交換」の契約終了を意味し、東方家の繁栄が失われる事にも繋がりかねません。反面、東方家の繁栄が続く限り、その踏み台とされた他の一族の恨みも続いていくでしょう。


B夜露は何者なのか?
八木山夜露、彼は東方家の繁栄のために踏み台にされた一族の唯一の末裔。東方家の裏切りで自分の一族は衰退したワケで、先祖からの積年の恨みも受け継いでいます。そして、自分の建築家としての才能を活かして社会的名声を得、失った一族の名誉を取り戻したいと願っているのです。(一方的な話ですが、)東方家を見返してやりたいと思っているのです。しかるのち、自らの手で東方家の罪を裁き、心底後悔させてから滅ぼす腹積もり。スタンド能力を手に入れた以上、誰にも怪しまれる事なくそれが実行できるでしょう。よって、「病気」を治す方法を掴んだらしい吉良の存在は邪魔だし、定助を執拗に殺そうとしているって事ですね。
東方家が滅びてしまえば、これもまた、かつての「等価交換」の契約終了。夜露の一族にとっても、永年の「呪い」からようやく解放される事になります。細々とかろうじて生き永らえてきた一族の無念を晴らし、ここから栄華を極める事も夢ではない。

夜露の先祖も「等価交換」について知っていたので、その情報は彼にも伝承されていました。そして、本来であれば、とっくに滅びているはずの彼の一族が今も続いているのは、そのおかげでもあります。なんと、発病する前に「等価交換」を行ない、あらかじめ「壁の目」の土地と「融合」してしまう……という荒業を発見していたからです。肉体は「岩石」「土砂」に変化し、もう真っ当な人間としては生きられないが、代わりに「病気」にもならずに済むのです。(よって、彼は今、「壁の目」の地中を住み処にしています。)
そんな夜露は、言わば生きた「壁の目」。彼自身の体内に埋め込まれたモノ同士でも、「等価交換」を行なう事が可能!もちろん、彼が取り込める程度の大きさのモノ同士に限りますが。……で、硬い鉱石とサランラップを「融合」させて「決して破れないラップ」を創り出し、体内から取り出して、康穂に使ったってワケですね。ただ、どうしても夜露の意志が反映されてしまうせいなのか、彼の体内で行なう「等価交換」はちょいと不安定。ある程度の時間が経過するまでは安定せず、彼の意識の集中が途切れると融合体は崩れ去ってしまうのです。
なお、彼自身のスタンド能力は、あくまで集める能力です。姿を消すのは、肉体を「岩石」化させて保護色とし、周囲の壁や床、地面等にうまく溶け込んでいるだけ。


C石化していた犬は何なのか?
その辺をウロついていた野良犬を、夜露が「壁の目」に埋めて岩石と「融合」させただけです。その犬を夜露は元通りに治してみせたワケですが、彼がやったのは「等価交換」をチャラにする方法。東方家に恨みを抱いてきた先祖達が、永年に渡る必死の調査・研究の末、ついに発見したもの。融合体に「ある物」を食べさせる、あるいは、融合体と「ある物」を一緒に埋める……だけで、「融合」も「等価交換」も全部キレイに元通り。東方家でさえ、それは知りません。
その「ある物」とは、前述の通り、東方家が栽培するイチジクの実と「カツアゲロード」の銀杏の実を「融合」させた果実であると予想しておきます。

ただし、この方法は定助には使えません。彼の半身である吉良はすでに死に、火葬されてしまっているのですから。もうどう足掻いても、定助は元の2人には戻れないのです。
さらに、東方家の「病気」を治す手段としても使えません。この方法は、あくまで「等価交換」の対象物にしか効果がないのです。今の東方家の状況は、遥か昔に行われた「等価交換」による影響を受けているだけ。現代に生きる彼ら自身が当事者ではないのですから。
だから結局、「ジョジョリオン」のストーリー的にはあまり意味のないものになると思います。単に夜露がつるぎちゃんを騙して利用するための方法として使われたに過ぎません。


でも、ひょっとしたらあの犬、つるぎちゃんに懐いて東方家の飼い犬になったりするかもしれませんね。「壁の目」とも縁深くなっちゃった事だし、そのうちスタンドまで発現させたりして。


D「X」と夜露の関係性とは何なのか?
#026での予想を活かし、定助の半身「X」は1901年に漂着した「男の子」の子孫とします。「男の子」はたまたま「聖なる遺体」の一部と「融合」してしまい、その力を「X」も受け継いでいる、と。つまり、定助の中には今も「遺体」のパワーが眠っているワケです。ただし、その事実を東方家は知らない。
「男の子」の身元は不明のままで、地元の名家である東方家が養子として引き取る事に。2代目「憲助」の常平さんの息子(現・家長の憲助さんの叔父)として、育てられたのでした。「男の子」の子どもや孫も、そのまま東方家で暮らします。いつか彼らのルーツが判明した時のため、1ヶ所に定住していた方が都合が良いからです。……しかし、常敏がそんな日々を崩してしまいました。彼が10歳で発病し、家族の誰かが身代わりになって助かった頃から、「何故、大切な家族が犠牲にならなきゃいけないんだ?」「他人を身代わりにすればいいじゃないか」と考えるようになっていったのです。東方家は代々、「長子の病気のみ助ける」「身代わりは絶対に家族の中の誰か」という掟を守ってきました。常敏はそれを破る事にしたのです。
そして、東方家にはちょうど「他人」が住んでいました。「男の子」の家系の者達が……。常敏は彼らを、今は使われていない地下室に幽閉。家を出て行く旨の置き手紙も無理矢理書かせ、家族の目すら欺きます。そのまま永遠に地下室に閉じ込め、「病気」の身代わり用の家系として利用する計画です。こうして、やがて地下で産まれたのが「X」。だから憲助さんも、「X」の存在は知らないのです。
(ただし、常敏は息子のつるぎちゃんにだけは教えています。誰を犠牲にしてでも家族だけは守りたいという強い決意を父から感じ取り、つるぎちゃんもそれに同調。そのため、つるぎちゃんは定助が以前、地下室に住んでいた事を知っていたのです。)

そんな折り、夜露が登場。実は、彼は吉良とも接点があります。吉良家(ジョースター家)もまた、東方家に恨みがあるからです。「長子の病気のみ助ける」という掟のために、東方家は(分家のような)ジョースター家に「等価交換」を行なってくれませんでした。助ける方法があるのに、自分達を見捨てた。悲しみから来る憎悪を抱えているのです。そういう意味では、夜露も吉良も同士。信頼関係はないまでも、互いの持つ情報はある程度、共有しています。東方家さえ知り得ない、「X」が「遺体」のパワーを受け継ぐという事実も、「遺体」を持ち込んだジョニィの子孫である吉良ならば知っている。
夜露にとって、「X」はただの邪魔者。フルーツパーラーの設計を依頼された際、家長である憲助に「地下室を使わせてほしい」と直接進言し、許可をもらいました。困った常敏は、やむなく「X」の幽閉場所を変更する事に。しかし、ここで吉良が「X」を救出します。吉良にとっては、「遺体」のパワーを持つ「X」は利用価値のある存在。まんまと出し抜かれてしまった夜露と常敏は、吉良への殺意を募らせるのでした。
(桜二郎に吉良の住所を教え、復讐をけしかけたのは、恐らく夜露の仕業です。彼の吉良への恨みも利用したワケです。どうにか桜二郎のスタンドから脱出した吉良は、その後、「X」と「融合」する事となります。)


E「X」と吉良の関係性とは何なのか?
東方家逃亡後、「X」は例の「記憶の男」に匿ってもらいました。彼は吉良と接点があり、夜露の知らない人物。そして彼は、ホリーさんだけが知る「壁の目」の秘密を欲していました。ホリーさんは「壁の目」の力を最大限に引き出す方法を知りながら、そのあまりの危険さゆえ、誰にも伝えずに死ぬつもりでいたのです。その上、彼女は「病気」に罹ってしまい、このままでは永遠に忘れ去られてしまう。
そこで目を付けたのが、「X」が持っていた「奪う」スタンド能力。「X」は世間を知らぬゆえの、他人を疑わない純粋さがあり、あっさり騙されてしまいます。ホリーさんが全てを忘れて死んでしまう前に、彼女から脳ミソごと秘密を奪ってしまったのです。そんな事があっては、虹村さんが東方家も定助も敵視するのは当然というものでしょう。そして、吉良も「X」の行動に憤慨。「記憶の男」を出し抜き、「遺体」のパワーと「壁の目」の秘密を持つ「X」と「融合」し、全てを手に入れる事にしたのです。

憲助さんは言いました。吉良は「病気」を治す方法を掴んでおり、それを定助の中に遺した、と。「融合」の際、吉良は「キンタマ」だけでなく「必要な記憶」も「X」に譲渡した事になるでしょう。とは言え、吉良は死ぬつもりもなければ、「X」に全てを渡す気もありません。自分の「命」までも含めて、「X」に一時預けているだけなのです。
つまり、今は「記憶」や「命」と共に「吉良吉影」が定助の中に眠っている状態で、何らかの条件を満たした時、完全に目醒めるという事。その時こそ、吉良は「遺体」のパワーも「壁の目」の秘密も独占するのです。自身の復活を前提にしての「融合」であるなら、その血を遺すために「キンタマ」も必要でしょうし、記憶喪失という重い代償も納得できます。ただ、記憶が戻り、吉良が覚醒したら、いよいよ「記憶の男」も彼に急接近してくる事でしょう。「記憶の男」こそが、物語の最重要人物なのかもしれません。


F「本屋」のマークは何だったのか?
事実として、吉良の手首にマークが描かれていた事から、定助は東方家の家系図に辿り着けました。そこからホリーさんやジョニィの事も知っていったワケで、言わば全ての始まり。だから普通に考えれば、吉良が「融合」後の自分を導くために遺したヒントなのでしょう。それは恐らく、定助が失った記憶を取り戻すために必要な工程。
では、康穂が幼少の頃に見たという、東方家のあちこちに描かれたマークも吉良が描いた?……そうなのかもしれませんが、別の可能性も挙げておきます。常敏が描いたという可能性です。家系図が載っている「スティール・ボール・ラン・レース全記録」なる本は、1989年に改訂されたものでした。1989年とは、1979年生まれの常敏が10歳になる年でもあります。「病気」になる前か、なった後かは分かりませんが……、憲助さんが跡取りの常敏にこの本を読ませ、一族の歴史について教えていたとしても不自然ではないでしょう。で、幼い常敏はそれを忘れないためか、あるいは単純にデザインが気に入っただけなのか、マークをあちこちに描きまくったのです。
やがて吉良は、東方家に侵入した際、そのマークに気付いて家系図を発見。彼はその事をずっと覚えていて、「融合」直前、自分の手首にも同じマークを描いたのです。

現在の東方邸にも、2階の書斎へ続く階段の手すりにマークが刻まれていました。もし憲助さんが、定助に家系図を見せたくないのだとしたら、そもそもこんなマークを放置しておくはずがありません。それどころか、憲助さんは吉良の記憶を欲しているのです。吉良の記憶の中にある、「病気」を治す方法を。……つまり、憲助さんにとって、定助の記憶が蘇るのはむしろ好都合。邪魔する理由などないのです。
憲助さんは、定助に「絶対に2階に行くな」と念押ししていました。ダチョウ倶楽部の「絶対押すなよ!」じゃないですけど、定助に2階への興味を持たせるための言葉だったのかもしれません。吉良の遺体にマークが描かれている事を知り、さらに定助を導こうとして、憲助さん自身で手すりにマークを刻み込んだのかもしれません。きっと憲助さんも、何が定助の記憶を呼び覚ますカギになるか分からないため、いろいろ試してみたいってのが実情。定助を学校に通わせても良いと判断したのも、そのためです。
定助を監禁・監視したところで、記憶が戻るとは限らない。だったら、反抗の意志さえなければ、ある程度は好きにさせてやろうというスタンス。家長として命令に従わせようとしたのも、大弥ちゃんの奴隷にしようとしたのも、要は「東方家に従順であってほしい」というだけの事。もともと定助への敵意・害意・殺意などありません。……もっとも、愛娘の純潔を汚そうとする輩に対しては、それが定助であってもガチで殺意と憎悪を燃やす(笑)。さすがにそれは、父親として致し方ない反応なのでしょう。
このように、「本屋」のマークは、複数の人達がそれぞれ別々の思惑で描いたものなのです。それらが偶然と必然で定助を導いてくれたのです。とりあえず、虹村さんが思うほど、東方家は危険ではないはず。ただ、家族と足並みを揃えず、未だ姿をちゃんと現さない「常敏」という存在はやはり不気味ッ!



――と、こんな感じの予想です。自分で予想・妄想しといて何ですが、つくづくややこしい人間関係になっちゃいそうですね。1人1人の感情・欲望が渦巻き、大きな運命のうねりを造り出す。そのような展開を期待しております。




(2014年3月19日)
(2014年3月23日:追記)




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