TOP  <<6〜10巻 戻る 16巻〜20巻>>



「STEEL BALL RUN」 コミックス感想
11〜15巻






●第15巻● (ゲティスバーグの夢)



<カバーイラスト>
ウルジャン4月号(2008年)での巻頭カラー、その4ページ目と同じカラーリングになっているイラスト。ジャイロとジョニィとH・Pがそれぞれのコマで写真のように描かれ、赤と黒と黄のみで塗り尽くされています。1つ1つの絵自体は、確かに美しいんだけど、あくまで普通の絵。しかし、このシンプルかつショッキングなカラーリングが加わった途端、見る者の目を引き付けるパワーが俄然強力になります。巻頭カラーの時とは異なり、人物にも黄が塗られているため、絵の中にメリハリも生まれましたね。シブさとポップさが融合した、荒木先生のセンス爆発の超美麗イラストです!色の組み合わせが放つエネルギーを感じずにはいられません。
背表紙はマジェント・マジェント。ちょっぴり美形化してる?よく見ると、左目にキズがありますね。そして、ウェカピポの決めポーズもようやく明らかになりました。曲げた腕を掲げて鉄球を構える姿勢。もはやウェカピポと言えばこのポーズですね。まだ背表紙に登場していない主要キャラは、大統領と2人の側近、ポコロコ、スティールの5人ってトコです。1人1巻ずつにして、全20巻になるのかな?

<作者コメント>
「荒木飛呂彦は癒し系に憧れる」の巻。これまでのインタビューでも「露伴だと思われて、怖がられてる」とよく発言されていた先生ですが、まさかここまで深刻な悩みだったとは!でも、リアリティーとファンタジーのせめぎ合いの中で「ジョジョ」という人間賛歌を追求し続ける創作の姿勢は露伴そのもの。実際は露伴よりも穏やかな人柄でしょうけど、ファンならやっぱり、先生がどんな性格だろうと緊張しまくって当然ですからねえ。果たして先生が「癒し系」なんて呼ばれる日は訪れるのか?
そう言やあ、かつては孤高のマンガ家ってイメージだった先生が、ここ数年で急に社交的になって人脈が増えた気がするのも、癒し系プロジェクトの一環だったの・か・も?

<内容>
アクセル・ROとの戦いを描いた「追憶の館」編を収録!「おませのせいで死んだのだ」の誤植も直り、#59では絵の細かな修正等も見られます。ラフ画は女らしくなったH・Pと男らしくなったジョニィの2点。ラフ画があると「ジョジョ」のコミックスを読んでるなって実感が湧きます。
ジョニィの生長ぶりに燃える今巻ですが、このバトルはテーマばかりが先走って、設定があまり練られていなかったというか、やや大雑把な印象を受けます。「胴体部」がどこに眠っていて、誰がどのように発見したのか?「ジャイロを呼び戻したら2人とも死ぬ」とか「捨てなくてはならないハメに陥ってしまう」とか、H・Pの言葉の真意は何だったのか?けっこう疑問点が残ってます。全ての情報が読者に提示されるとは限らないし、不明瞭な部分を想像する楽しさもあるものの、なんかスッキリしないバトルでした。特殊なフィールドを創るところといい、概念的で曖昧なところといい、『シビル・ウォー』は6部っぽいスタンドですよね。
何より、この戦いにおいて最も重要と思われる、ジョニィが迷いを捨てて爪弾を自分に撃つシーン。「もう迷ってない。さっきわかった!」とジョニィは言ってますが、その気付きの理由となるものをハッキリ描写してほしかったです。迷いに包まれ、過去への後悔と罪の意識に襲われ続けていたジョニィが、ついに迷いを振り切り、今の自分への誇りと未来への道を掴もうとする、そのキッカケが知りたかったです。一度死ぬ事にさえ迷いが無くなった程の変貌を遂げたワケですし、それはきっとジョニィ自身の過去の克服にも繋がってくる部分だと思うので。そこはちょっと残念。
色々と不満点を書いてはいますけど、やっぱし面白かったです。「遺体」も大統領が全て奪って、物語もいよいよクライマックス!期待が膨らみます。ついでに、ここらで「遺体」が揃った時の予想も改めてしてみました。UJ編#7でも書きましたが、「遺体」を揃えた者には人々の「尊敬」を集める力、即ち究極のカリスマが宿るのだと思います。人々が争い傷付け合うのは、価値観の相違敬意の欠如が主な原因。「SBR」においても、「価値観」「敬意」については度々触れられてきましたね。そして、人々が悩み迷い苦しむのは、自分が「誤った道」を進んでいるかもしれないという恐怖後悔罪悪感ゆえ。それらを全て取り除いてくれるものこそが唯一絶対の存在。
つまり、世界中の誰もが1つのものを尊敬し続けるようになれば、人々の心も1つになり、自信と誇りを持って迷わずに生きられ、世界は自ずと平和になるだろうという理屈です。それこそ、性別・年齢・国籍・人種・身分・文化・宗教といった、あらゆる差や隔たりをも超えて。「クイック・ジャパン」にて荒木先生は「銃を撃つのが速いヤツが最後に勝つってのはおかしい。銃に代わるものは聖なるものの存在かも。」と発言していましたが、「尊敬」とは「聖なるものの存在」を心に置くという事。その「聖なる存在」に自分がなるため、全世界を1つの平和な国家として永遠に繁栄させるため、人々を「正しき道」へと導くため、大統領は腐心しているのです。彼もまたプッチ同様、自分の「正義」を貫くゆえに「悪」となってしまった人物なんでしょうけど、彼の強い信念や歪んだ執念をこれから丁寧に描いてくれると嬉しいです。
ただ、最終的にはジョニィがイエス様に選ばれ、その「聖なる存在」になる資格を得ると思います。しかしジョニィは、その究極の力をあえて手放すでしょう。自分が欲しいのは、そんなワケの分からない力なんかじゃなく、明日を生きていくための希望だけなんだと。この長い長い旅の中で、幾度も絶望し涙を流してきたけど、それでも自分自身が選び抜いた道を歩めたのだから幸福だったと。世界中の人々の心を縛り付けるものが「聖なる力」とは思わないし、与えられるだけの安息を「正しい道」とは思わないと。これまで「遺体」を集めるために命を懸けてきたジョニィだからこそ、そういう選択をするのです。偉大なる「神」としてではなく、ちっぽけなジョニィ・ジョースターとしての人生を歩む事を選んだジョニィは、誇らしげな表情でレースへ戻って行くでしょう。本当の意味で勝ち抜き、生き抜くために。

(2008年5月3日)
(2008年5月5日:ちょっと改訂)




●第14巻● (勝利者への資格)



<カバーイラスト>
それぞれ思い思いのポーズを決めたジャイロジョニィマジェントウェカピポの4人です。ウルジャン11月号(2007年)のトビラ絵と同じ、「オレがナンバー1だぜッ!」と言わんばかりに、天に向かって高々と腕を伸ばすジャイロ。空をぼんやり眺めてるジョニィ。標的へ銃を向けるマジェント。2つの鉄球を手に、こちらを真っ直ぐ見据えるウェカピポ。この巻の主要メンバー揃い踏み!背景のエメラルド・グリーンと、舞い降りる雪の結晶が、ファンタジックな印象を与えてくれますね。マジェントとウェカピポの敵さん2人も色合いがパステル風味で、クッキリしたカラーリングの主役2人を引き立てているかのようです。
背表紙は驚いた事に、なんとマイク・O!そしてウェカピポ。まさか今更マイク・Oが描かれるとは予想外の世界でした。しかも、やけにカッコイイし。思いのほか彼の人気が高かったのか、「世界」の口癖があちこちで流行っていたのか?作中に描かれてはいないけれど、恐らく荒木先生は考えているであろう彼の過去や細かな設定なんかも知りたいものです。そして、せっかくのイカしたポーズを隠された哀れなウェカピポさん。「おまえ、邪魔なんだけど…」と険しい表情でマイク・Oを睨んでいるようにも見え、思わず涙しました。

<作者コメント>
今回は無事、荒木先生のコメントが読めました。人間と馬は相性バツグンだから、絵もバッチリ決まる時があるよ。こういう内容。確かに馬に跨る男ってのは、えらいカッコ良く、気品に溢れ、どこか哀愁も漂い、この上ないくらい絵になりますよね。それは「SBR」を読んでいても、常々感じる事です。バイクや車にはない、生命の躍動と調和が生み出す美なんでしょうか。
写真は「南海キャンディーズ」のしずちゃんこと、山崎静代さんの描かれた荒木先生の肖像画と思われます。さすがに上手いですね。しずちゃんは荒木先生とプライベートでも親交があるらしいし、自分の絵をコミックスにまで載せてもらえるとは、何とも微笑ましく、そして羨ましくもある話です。こんな風に荒木先生が色々な人と知り合い、接していく事によって、また新たなアイディアや表現が生まれるかもしれませんしね。

<内容>
表紙イラストを見れば一目瞭然。氷の世界で繰り広げられる熱い戦い。ウェカピポ&マジェントとの激闘!6th.STAGEゴール手前のデッドヒート!波乱含みの7th.STAGE開幕まで収録。寒い冬の夜長にオススメの1冊です。
この辺は毎月のように掲載ページが減っていて、リアルタイムで読んでいた時は少々じれったく感じられたのも事実でした。しかし、こうやって一気にまとめて読むと、緩急の効いた展開にメチャメチャ引き込まれますね。「勝利者への資格」というタイトルも考えさせられる所です。全てを差し出して「奇跡」の一部となったジャイロ達と、一切の無駄なく「計算」し尽くされた行動を取るウェカピポ、そして、自分を守る「幸運」の上であぐらをかいてるポコロコ。運命を味方にし、真の勝利への道を切り開けるのは誰なのか?それは火を見るより明らかです。残り3つのSTAGEでの、ウェカピポの活躍とポコロコの大きな生長に期待しています。
ウェカピポとマジェントについても新事実が判明。まず、ウェカピポの持つ「レッキング・ボール」の衛星は14個との事。さりげにちょっと気になってはいたのですが、ここまで設定されていたのか。「レッキング・ボール」の別名も「砕けゆく鉄球」から「壊れゆく鉄球」に正式変更。マジェントのスタンド名も分かりました。その名も『20th(トゥエンティース) センチュリー・ボーイ』!SOUL'd OUTの曲名かと思いきや、普通に洋楽からでした。飛行機の発明に胸躍らせ、「これからいい時代がやって来るぜ」と未来に夢と希望を抱くマジェントらしい名前ですね。
ラフ画も1つ見れました。雪の中で佇むジャイロとジョニィです。ここ最近は絵柄の変化に伴って、ラフ画も微妙に変わってきている印象を受けます。以前より線が丁寧で繊細になっているような。ただの気のせいかもしれないけど。
さて、今回も絵やセリフの修正はありました。特に嬉しいのは、描き忘れていたウェカピポのヒゲの追加。これでグッと渋みが増しました。表紙イラストではヒゲなしですが、1枚絵の場合は多少の違いも大して気になりません。11人の男達との回想シーンでは、ウルジャン掲載時は「左手」とされていた部分も、ちゃんと「右腕」に修正されています。フキダシ内の絵も右腕になってました。ウェカピポに追い詰められた際のジャイロの独白も、ニューヨークまでの距離が300キロから1500キロに訂正。逆に、個人的に残念だったのが、ジャイロの淹れたコーヒーを飲んだジョニィのセリフの変更。「もっともっと旅を続けようって幸せな気分になる」だったのが、「さらに新しい旅に出向いて行こうという気持ちになる」になっていました。前者の方がほのぼのしてて、ジョニィの純粋さが伝わって好きなんだけどなあ。まあ、後者も勇ましく前進していく感じでカッコイイんだけど。きっとジョニィはまだまだ満たされてはいけないんだろうな。もっともっと飢えてなければ。

(2007年12月6日)




●第13巻● (壊れゆく鉄球)



<カバーイラスト>
なんとセミヌードのルーシーが表紙を飾っています。これほど正統派セクシーな表紙イラストは初めてです。エロいというより美しい。男を惑わすその視線!しなやかな曲線美!14歳とは思えぬ色気です。帽子やベルトといった小物のデザインも凝ってますね。黄金に輝くバックには、10巻と同じく謎の球体が散りばめられています。そこをVの字に切り裂く今巻の主要メンバー達。華やかなゴールドとは対照的に、落ち着いたブルーが目を引きます。さりげに大統領にとっては念願の初カラーでもありました。Vの字イラストは、それを祝してのものに違いありません!「ヴァレンタイン(Valentine)」大統領の「勝利(Victory)」を意味する「V」なのです!異論は認めます。
背表紙は予想通りスカーレット。彼女自身は死んでしまいましたけど、今後も彼女に化けたルーシーが描かれますからね。背表紙を飾るに相応しい、ストーリー上の重要人物です。11人の男達の残りも、そんなスカーレットの後ろで突っ立っております。14巻はポコロコっぽい感じです。

<作者コメント>
荒木先生のコメントは笑えるものも心に響くものもあって、いつもいつも楽しみにしております。ウルジャンには作者コメントの欄もないので、先生の近況を窺える貴重な場でもあります。さて、今回はどんな事が書かれているのでしょうか?ワクワクしながら表紙をめくります。…………おややあっ!?コメントがねえッ!
コメントがあるはずの場所にあったものは、3枚の写真。中央の写真には、ホテルのお掃除プレートからこちらを覗く荒木先生が。そして、その上下の写真には、日本人形や下駄がジャイロの絵と共に写っていました。先生がどこかへ旅行に行った際に撮った写真のようですね。ジャイロと「和」のコラボは新鮮で面白い。それにしても、何の前触れもなく今までの常識を打ち破るとは……。恐るべし、荒木飛呂彦……。
でも、節目の年であった去年・今年は、異常な程に先生が公の場で色々語りまくってましたからね。言葉や文字ではなく、絵や写真で何かを表現したくなったのかもしれません。アートな雰囲気があって、これはこれで好きです。こういうのもたまにならイイかな。

<内容>
ルーシー&ホット・パンツの政府公邸潜入編と、ジャイロ&ジョニィの氷の海峡編。読み返してみても、圧迫祭りのインパクトは強烈だし、非力なルーシーの奮闘はハラハラさせられます。可能であるなら、ルーシー1人で窮地を乗り超えてほしい所なんですが、いつも危機一髪で助けが入るのもルーシーの持つ「引力」の強さ故とも受け取れます。敵も味方も悪意も愛情も、何でも引き寄せてしまうのがルーシーなのかもしれません。「引力」と言えば、H・Pが多くの「遺体」をGETできているのも、「脊椎」の所有者だからと考えるべきでしょうか?最重要部位である「脊椎」の強力な「引力」によって、他のパーツが次第に集まって来ているって事で。ルーシーとH・Pがナイス・タイミングで出会えたのは、ルーシーの持つ「引力」だけでなく、「脊椎」が「右眼球」を引き付けたからなのかも。「脊椎の一部」にも「引力」は働いているはずですし、やはり「両脚部」はジョニィの元へ!?
足音を出さずに歩き、足でマンドリンを弾く大統領。この設定を、大統領のスタンド能力の伏線と考えている方もけっこういらっしゃるようですが、私はそう思ってはいません。ブチャラティの汗舐めやウェザーのつまさき歩きなんかと一緒で、単に「ヘンな癖や特技も持ってる、普通とは一味違うヤツだ」って印象を与えるための描写と考えております。勝手な予想だと、時間系の能力でもないと思ってます。
政府公邸潜入編ラストには、描き下ろしやセリフの追加も。大統領のスカーレットへの感謝の言葉には驚きました。これは「切れ味鋭いけどあたたかい」というスカーレットの評価を裏付ける描写なのか、それとも何か別の意図が……?大統領はどうにも腹が読めない男です。今後のスカーレット(=ルーシー)との接触の中で、彼の内面も徐々に浮き上がってくるんでしょうね。2ページの描き下ろしは、話の余韻を広げてくれてます。小さいコマであっさり終わるより、大ゴマでの表情や俯瞰で締めた方がよりドラマチック!しかも、ルーシーのラフ画も見れて満足です。
あと、例によって、細かいセリフの追加や修正は他にもありました。個人的に嬉しかったのは、ウルジャン掲載時には「バレンタイン」だったのが、ちゃんと「ヴァレンタイン」に修正されていた点。どーでもいい事が気になる性格なもんで。

(2007年9月5日)




●第12巻● (遺体への条件 友情への条件)



<カバーイラスト>
ウルジャン5月号(2007年)のトビラ絵の別バージョン。ヒョウ柄だらけの部屋でビシッと決めているジャイロ・ジョニィ、そしてルーシーのイラストです。ルーシーがコミックスの表紙に登場したのは、これが初めてですね。大きく描かれた、こちらへ伸ばした彼女の手が印象的。シックなカラーの背景と、ジョニィとルーシーの青や赤。いつもながら色のコントラストも見事で、美しさに目を奪われます。実にシブくて、これまた大好きな絵です。
背表紙はホット・パンツ。顔がちょっとゴツくて、なんかオッサンくさいです。さらに、バックには11人の男達まで描かれていました。全巻並べて見てみると、キャラの位置や大きさがそれぞれ違っていて、どうにも空間が把握しにくいです。「SBR」の背表紙イラストはある意味、イメージ画のような描かれ方をしているのかもしれません。13巻はスカーレットかな?

<作者コメント>
荒木先生の中で周期的に訪れる「怒の季節」について。少し調べてみただけでも、「テキサス・チェーンソー・ビギニング」と「テキサス・チェーンキラー・ビギニング」を間違えてしまった人は多いみたいですね。まぎらわし過ぎ。しかし、これまでの作品の中で、どこが「怒の季節」に描かれたものなのか興味がそそられる所。リンゴォ戦あたりはちょっとそんな匂いが感じられますけど、どうなんでしょ?
もし万が一、いつの日か荒木先生にお会いする機会があったなら、是非ともその期間中は避けたいものです。

<内容>
「遺体」の試練と、11人との激闘。めっちゃ面白い。メリハリがあって、場面の見せ方もスゴイ。予感はしていましたが、やはりこの「湖畔のルール」編はかなりのお気に入りとなりました。ジャイロ達の勝利がシュガー(そして「遺体」の意志)に約束された、超重要エピソードでもあります。構成的に完成度が高く、テーマもハッキリしており、ドラマも詰め込まれているので、読んでて胸が熱くなりますね。乾杯シーンはやっぱり最高。お互いに責めるでも謝るでも悔やむでも礼を言うでもなく、ただ事実だけを受け止めて、共に再び前へ歩き出そうとする2人の友情に涙。
ウルジャン掲載時からの追加・修正ももちろんありました。7人に囲まれて撃たれる瞬間の、ジャイロ&ジョニィと銃が描かれた2ページ。無音・スローモーションで静かに流れていくかのような表現で、その前後の激しい「動」のシーンが引き立ちます。シュガーから受け取った「右腕」も5本指に修正されているし、ジョニィの「最後の一発…!!」という心の声や、ルーシーの「まあっ……」ってセリフ、ジャイロが「木の根」化するシーンの集中線にジョニィの瞳のトーンなども追加。「ボディガードに雇った!!」の部分のフキダシもギザギザになってました。荒木先生の細やかなこだわりが感じられます。
今回もラフ画が無くって挫けそうですが、11人のスタンドについて少し収穫がありました。スタンド名は『TATOO YOU!』。一応、リーダー格はいるらしいけど、11人チームで1つのスタンドです。親子で同じ能力を使い、3人いるからこその攻撃も仕掛けて来たブンブーン一家みたいですね。息ピッタリのチームプレイに、一心同体になるかのような能力。11人の間には、家族以上の固い絆があったのかもしれません。あるいは、11人兄弟だったとか?彼らがどんな人生を歩んで来たのか、知りたいものです。あれこれ考えると、大事な仲間を全て失ってしまった最後の1人の背中が、ますます哀しげに見えてきますね。そのうちL.A.と手を組んで、ジャイロ達に復讐しに来ても面白そう。
ちなみに、スタンド名からの連想ですが、彼らの背中には同じ模様のタトゥーが彫られているんじゃないかと思いました。それなら、あのコートを脱いだり破られたりしても能力はちゃんと使えますからね。11人は謎だらけですが、どこか惹かれるものがあり、想像力を刺激されます。デザインも好みだし、あの壮絶な戦いもコミックスで読むと余計に引き込まれます。

(2007年5月3日)




●第11巻● (黄金長方形をつくれ!)



<カバーイラスト>
ウルジャン3月号(2007年)のカラー表紙イラストのジャイロだけバージョンって趣き。雪の中、遠くの景色に目を凝らしているジャイロの絵です。ジャイロがカッコイイのはもちろんですが、色の塗り方が幻想的で好き。バックのモスグリーンには濃淡があって、空間の奥行きみたいなものが感じられるし、下の部分が白くなっているのも冬の冷たい空気が立ち上って来るかのよう。その「緑」の中で、ジャイロの服や鉄球の「紫」が美しく映えていますね。チョークで描いたような白い線で、降りしきる雪が表現されている所も独特。トンボ型アクセも良いアクセントに。また新しい荒木カラーが見られて満足でした。
背表紙はノリスケさん。めっちゃガンつけてます。うかつに目を合わせたら絡まれそうです。コミックス派の人がこれを最初に見た場合、「あ、やっぱノリスケが本体かよ」と思ってしまいかねません。そして、本編を読んで「ギャニィィィィイイ――ッ!?」と、サンドマン・ショックも倍増する事受け合い。恐るべき荒木マジックです。

<作者コメント>
「数字」についての荒木先生の意見。3部でのDIOの発言や、「デッドマンズ・Q」での吉良の独白を思い出させます。昔から色々と思う所はあったんでしょうが、ここ最近の世間での事件や異常気象などで、さらに想いが強まってきたのかもしれません。私も日頃から「数字に囚われ過ぎてもいかんよな〜」と漠然と考えていたので、これはけっこう共感できました。でも「人口100億人の国」なんて発想はさすがにしませんでしたよ(笑)。自分の想像で怖がっている先生も面白い。
この巻から始まる「湖畔のルール」編、そんな「数字」に対する考えが色濃く反映されているんでしょうね。使い切れない程の大金に苦しめられ、11人という前代未聞の人数で襲って来る敵に追い詰められ、「数字」の恐怖が存分に描かれています。先生自身の中に湧く疑念や謎が、作品のネタへと昇華されているようです。「謎こそ創作のエネルギー」と言い切るだけの事はありますね。

<内容>
新たに語るような事も特にないんですけど、サンドマン戦は連続して読むとスゴイ勢いですね。確かに彼の死は残念。でも、なんて言うか、あれは単なるバトルじゃなく濃厚なドラマですよ。個人的には8巻と肩を並べるくらい、この巻にも「男の世界」が充満していると思います。それでいて、「男」だけに偏らず、ホット・パンツもシュガーちゃんも重要な位置付けに。老いも若きも男も女も、みんな自分の目的に向かって、不器用でも前に進もうとしています。そういう所が、つくづく「荒木マンガはいいなあ〜」と。
ジョニィが「黄金長方形」を見た蝶の羽を利用して「穴」をサンドマンに移動させたり、ジャイロに散々せがんでいたバックルから鉄球を作り出して最後の攻撃をしたり、サンドマンとの決闘シーンは流れが非常に美しいと思います。でも、LESSON4真っ最中のジャイロとジョニィは、何回読んでも笑ってしまう……。ジャイロの真意が理解不能で大混乱のジョニィと、そんなジョニィにお構いなしで冷静なジャイロ。対照的な2人が織り成す命懸けのコント、完璧にツボにハマッちゃいました。
今回はラフ画は無し……。「SBR」のスタンド解説は、5〜6部のスタンド表ほど細かく分析もされてないし、あんまり必要性を感じないんですけどね。毎巻毎巻ウザくて申し訳ありませんが、やっぱりラフ画が超見たいです。コミックスの楽しみの1つなんで……。
あと、最初のキャラ紹介ページ。レースのコースは修正せずに通すつもりみたいですね。サンドマンも相変わらず、しっかり「砂男」と訳されたままなのが微妙に笑えます。それと、「約束の地 シュガー・マウンテン」ってタイトル。これだけ見ると、シュガー・マウンテンがかわいい女の子の名前とは思えませんよね。「遺体」を探して登山でもすんのかって感じ。

(2007年3月3日)







TOP  <<6〜10巻 戻る 16巻〜20巻>>

inserted by FC2 system